ニュースの概要
カナダのバンクーバー市は、2026年から2027年にかけて街路樹をおよそ3,000本植える計画を示した。目玉は、道路の大部分が舗装で覆われた地域に、ツリーピット(=歩道などに設ける木の植え穴)を50か所整備する点である。市の狙いは、単に本数を増やすことではない。根が十分に伸びる空間を確保し、都市の樹冠(=枝葉が地面を覆う面積)を着実に広げることにある。舗装の多い場所では、植え穴が小さく水はけも悪くなりやすい。その結果、木が育たなかったり、根が舗装を持ち上げたり、強風で倒れたりする恐れが出る。市の計画は、地上の植樹と地下の環境設計を一体で進める姿勢を示している。
引用元: バンクーバー市、舗装の多い地域を含む街路樹3,000本の植栽計画を発表(City of Vancouver)
分析・見解
本数の目標より土の量を先に決める発想
街路樹の計画は、何本植えたかで語られがちである。しかし本数は入り口にすぎない。本当の成果は、20年後に何本が大きく育っているかで決まる。舗装の多い通りでは、植え穴が小さく、根の行き場がない。大きく育つ木には、樹種にもよるが十数立方メートル以上の土が望ましいとされる。畳1枚ほどの穴を深さ1メートル掘っても、せいぜい1.6立方メートルである。足りないのは明らかだ。
バンクーバーの計画で注目したいのは、50か所という数より、舗装率の高い場所を狙った点だ。植えやすい場所から植えれば本数は稼げる。だが、夏に熱がこもる場所ほど日陰の効果は大きい。難しい場所に先に手を付ける判断は、数字の見栄えより実効性を選んだものといえる。日本でも、夏の歩道の表面温度が高くなる幹線道路は多く、同じ悩みを抱える自治体は少なくない。
根上がりと倒伏は地下の窮屈さが生む
根上がり、生育不良、倒伏は、別々の問題に見えて原因は同じである。土が少なく水はけも悪いと、根は酸素が足りず深く入れない。そこで浅く横に広がり、舗装を持ち上げる。浅い根の木は、強風に耐えにくい。
対策の代表が、砕石と土を組み合わせた工法や、地中に箱状の骨組みを置いて土を守る方式である。上の舗装の重みを骨組みが受け、下の土は踏み固められない。北欧の都市などで長く使われてきた考え方だ。ツリーピットの整備は、この地下の設計とセットで初めて意味を持つ。
地下は水道管や電線との場所取り合戦になる
ただし地下は空いていない。水道管、ガス管、通信ケーブルが走っており、植え穴を広げることは、これらとの場所取りになる。ここで有効なのは、管の更新工事に合わせて植栽空間をつくることだ。どうせ掘り返すなら、同時に土を入れ替えるほうが費用は小さい。掘削の回数を減らすことは、交通規制の回数を減らすことにもつながる。
私は、街路樹を緑の設備として管理台帳に載せる発想が要ると考える。水道管に寿命と更新時期があるように、木の根の空間にも点検と更新の計画があってよい。
成否は植えた後の三年間と数字の公開で決まる
計画の期間が2026年から2027年と区切られている点も見逃せない。植樹はゴールではなく、活着(=根づいて自力で育ち始めること)までの数年が勝負だからだ。水やりと点検の予算が続くかどうかで、同じ3,000本でも結果は大きく変わる。植えて終わりの事業は、枯れ木の補植に追われて予算を食いつぶしやすい。
評価の物差しは、生存率、樹冠の面積、舗装の補修件数が分かりやすい。これらを公開できれば、他都市にとっても手本になる。猛暑や豪雨が増える中、植え穴は雨水を受けとめる役目も担う。木と排水をひとつの設備として考える流れは、今後さらに強まるだろう。
ビジネスへの影響
見積もりは本数ではなく土の量で組み直す
造園や道路工事の会社にとって、今回の計画は提案の型を変えるヒントになる。植栽の見積もりを本数と単価だけで出すと、安くて小さな穴に流れやすい。そこで、植え穴1か所あたりの土の容積、排水の確認方法、地下の埋設物の調査を項目として明示する。数字で根拠を示せる会社は、発注側が説明責任を果たす助けにもなる。
日本の改修工事では、歩道の更新時に植え穴だけを広げる例がある。しかし周囲の舗装の下が固く締め固められていると、根は外へ出られない。穴の外側の土の状態も、仕様に入れておくべきである。
既存の緑地は水はけの確認から始められる
商業施設の前庭や駐車場の植栽、マンション敷地の並木でも、木が弱る原因は同じことが多い。まず穴に水を張り、一晩で引くかを確かめるとよい。引かなければ排水不良の疑いがある。次に、根元の周囲の土が踏み固められていないか、舗装が浮いていないかを見る。これだけで、倒木の危険がある木を早めに見つけられる。倒木事故は人身被害と賠償につながるため、点検費は保険料の一種と考えられる。点検は専門家だけに頼らず、管理担当者が写真つきで年に二回記録する形でも十分に役立つ。
補助制度と長期の維持費をセットで試算する
自治体の緑化計画や環境認証では、緑の面積や樹冠の広がりが評価される場面が増えている。初期費用だけで判断せず、10年から20年の維持費、枯れた木の補植、舗装補修の費用まで含めて比べたい。大きな植え穴は初期費用が高くても、後の補修が減れば総額で有利になりうる。計画書には、費用に加え、生存率の目標と点検の頻度も書いておくと、社内外の合意が得やすい。最初は一路線の試験区間から始め、結果を見て広げる進め方が無理がない。
